日本初、サーチファンド専門ファンドの誕生:次世代経営者が挑む中小企業承継革命

編集部(産業創造チーム)

事業承継問題が深刻化する日本の産業界に、革新的な解決策となる可能性を秘めた「サーチファンド」という選択肢が本格的に登場した。2025年2月28日、インクルージョン・ジャパン株式会社(以下ICJ)は、日本のベンチャーキャピタルとして初めて、サーチファンドを投資対象とする「ICJ 1号ファンド オブ サーチファンド投資事業有限責任組合」を組成。株式会社高島屋と三菱UFJ信託銀行株式会社が出資する契約を締結した。

この画期的な取り組みは、「顔の見える事業承継」という新たなコンセプトで、中小企業の持続的発展と次世代経営者の育成を同時に実現しようというものだ。本記事では、このファンドの背景と可能性、そして関係者それぞれにとっての意義を詳しく探る。

サーチファンドという新たな選択肢

サーチファンドとは、将来有望な経営者候補(サーチャー)が主役となる独自の投資モデルだ。サーチャーは複数の投資家から資金を調達し、有望な中小企業を探索・買収。自らがその企業の経営者となり、成長を実現させる仕組みだ。

1980年代に米国で誕生したこのモデルは、これまで世界各国で数百件が設立され、高い投資リターンを生み出してきた実績がある。現在、日本では事業承継の課題を抱える中小企業が多く、次世代に引き継がれるべき優れた企業が存続の危機に直面している。そうした状況の中、サーチファンドは事業承継の新たな選択肢として注目を集めている。

ICJ 1号ファンド オブ サーチファンドの概要

ICJはこれまで「ICJ 1号ファンド」および「ICJ 2号ファンド」を通じ、0から1を生み出す起業家の発掘・投資・成長支援を行ってきた。今回設立した本ファンドでは、これまで培った経営者候補とのネットワークや支援ノウハウを活用し、事業承継を通じて1から10への成長を目指すサーチャーへの投資や、サーチャーが中小企業を買収する際の追加投資を実施する。

本ファンドの概要は以下の通りだ:

  • 名称:ICJ 1号ファンド オブ サーチファンド投資事業有限責任組合
  • ファンド総額:10億円(予定)
  • 無限責任組合員:インクルージョン・ジャパン株式会社
  • 有限責任組合員:株式会社高島屋、三菱UFJ信託銀行株式会社、他

最も特筆すべきは、このスキームがベンチャーキャピタルと事業会社によるサーチファンドへの投資として日本初の試みであることだ。

多様なステークホルダーが得る価値

中小企業オーナーにとっての意義

サーチファンドは、後継者不在に悩む中小企業オーナーにとって、単なるM&Aの手段を超えた価値をもたらす。最大の特徴は、事業を引き継ぐサーチャー自身が主体となり、オーナーと直接交渉を行いながら企業を選定・買収する点にある。

これにより、オーナーは「顔の見える事業承継」を実現し、企業の理念や文化を尊重しながら、長期的な成長を目指すことが可能となる。また、サーチファンドを活用することで、経営経験豊富な支援者のネットワークを活かした成長戦略の策定・実行が進められるため、単なる所有権の移行にとどまらず、事業の持続的な発展を実現できる。

特に、長期的な視点で競争力を強化し、経営基盤を安定させたい企業にとって、サーチファンドは極めて有効な選択肢となる。従業員の雇用継続や取引先との関係維持にも配慮した形での事業承継が可能になるため、地域経済や業界全体への貢献も期待できるだろう。

事業会社にとっての戦略的意義

高島屋や三菱UFJ信託銀行のような事業会社にとって、サーチファンドを通じた投資は多面的な価値を持つ。

まず、安定したサプライチェーンの確保や新たな成長機会の創出につながる可能性がある。また、成長が期待できる中小企業を早期に発掘し、M&Aを通じて事業を拡大できる戦略的な機会を得ることができる。さらに、自社の知見や経営ノウハウを活かしながら次世代の経営者育成を支援することで、地域経済の発展や業界全体の持続的成長に貢献することも可能だ。

三菱UFJ信託銀行は、「安心・豊かな社会」と「お客さまとともにある未来」を創造する信託銀行を目指し、成長企業やファンドへの出資を通じて社会課題解決に貢献するソリューションの共同開発を行っている。本ファンドへの出資を通じて、事業承継問題や経営人材不足といった社会課題の解決に取り組む方針だ。

高島屋は、グループ経営理念「いつも、人から。」に基づき、「人を信じ、人を愛し、人につくす」こころを大切にし、社会に貢献してきた。企業メッセージ「’変わらない’のに、あたらしい。」には、伝統的な技術・文化や長年培われてきた確かな価値を守り継ぎながら、時代の変化にも柔軟に対応するという想いが込められている。

本ファンドへの出資を通じて、事業承継問題という喫緊の社会課題の解決に取り組むとともに、魅力ある品揃えやグループコンテンツのさらなる充実化を実現するパートナーシップの構築により、事業成長との両立を図る考えだ。

サーチャーにとっての挑戦と可能性

サーチャーにとって、このモデルは経営者としての夢を実現する絶好の機会となる。自らの経営能力と情熱を持って中小企業の再成長を実現し、社会に貢献しながら自己実現を図れる点が最大の魅力だ。

また、ゼロから起業する場合と比較して、既に事業基盤や顧客、従業員が存在する企業を引き継ぐことで、相対的にリスクを抑えながら経営者としてのキャリアをスタートできるという利点もある。さらに、背後にはICJをはじめとする経験豊富な支援者とのネットワークがあり、経営上の課題に直面した際にも適切なサポートを受けられる環境が整っている。

第一号案件 — ジャパン・リレー・パートナーズ合同会社

本ファンドからの第一号案件として、小林靖氏が設立したサーチファンド「ジャパン・リレー・パートナーズ合同会社」への投資が予定されている。小林氏は、豊田通商で同社初のキューバ現地法人を設立し、初代社長として中央政府向けの新規事業開発を手掛けた経験を持つ。その後、スペインのIESEビジネススクールでMBAを取得し、同校では日本人として初めてサーチファンドクラブ代表を務めるなど、国際的なビジネス経験とサーチファンドに関する専門知識を併せ持つ人物だ。

小林氏のような質の高いサーチャーの存在が、サーチファンドモデルの成功に不可欠だ。経営能力、業界知識、交渉力、そして何より企業文化を尊重し発展させる情熱と使命感を持つ人材の発掘・支援が、本ファンドの重要な役割となるだろう。

日本型サーチファンドの可能性

ICJは本ファンドを通じて、日本の中小企業の事業承継問題を解決し、新たな成長機会を創出することを目指している。今後も、優秀な経営者候補(サーチャー)や投資家、事業会社との連携を深め、サーチファンドの普及とさらなる社会的意義の拡大に努める方針だ。

サーチファンドの広がりは、日本の中小企業生態系に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。後継者不足で廃業を余儀なくされる優良企業の救済、中小企業の持続的成長の促進、そして次世代経営者の育成という三位一体の効果が期待できる。

また、日本特有の商習慣や企業文化を考慮した「日本型サーチファンド」のモデル確立、地方創生と結びついた地域密着型サーチファンドの展開、業界特化型サーチファンドの可能性など、発展の余地は大きい。

編集部後記

中小企業の事業承継という社会課題は、日本の産業構造と社会の持続可能性に関わる国家的課題である。ICJが先駆けるサーチファンドモデルは、経営者育成と企業再生を一体化させた画期的な解決策として、今後の日本経済に新たな可能性をもたらすだろう。

高島屋や三菱UFJ信託銀行といった大手企業の参画は、サーチファンドが単なるニッチな投資手法ではなく、主流のビジネスモデルとして認知され始めていることの証左だ。今後、より多くの企業や投資家がこの領域に参入し、日本独自のサーチファンドエコシステムが形成されることを期待したい。

なお、本ファンドやサーチファンドに関心をお持ちの方向けに、2025年3月26日(水)19時から東京ミッドタウン日比谷のBASE Qにて説明会が開催される。サーチファンドに興味のある投資家、事業会社、個人は、https://icj-searchfund.peatix.com から申し込みが可能だ。

ご相談・お問い合わせはこちらまで

Email:masaki.hamasaki@gmail.com URL:https://lin.ee/b3Ht5zA


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