VCの巨人ジャフコ、ESG投資へ本格シフト。未来のユニコーンに求められる新たな基準とは?

日本のベンチャーキャピタル(VC)業界を50年以上にわたり牽引してきたジャフコ グループ株式会社(以下、ジャフコ)が、未来への投資基準を大きくアップデートする一手となる、重要な発表を行った。

同社は2025年7月11日付で、国連が支援する責任投資原則(PRI)に署名。これに合わせ、投資活動の全般に適用される「ESG投資方針」を新たに策定したことを明らかにした。

累計1兆円を超えるファンド運用実績と1,000社以上の上場支援実績を誇るVCの巨人が、なぜ今、本格的にESGへコミットするのか。この動きは、日本のスタートアップエコシステムに何をもたらすのか。その背景と狙いを紐解く。

「経済的リターン」だけでは不十分。高まるVCの社会的役割

近年、気候変動や人権問題といった社会課題の解決をミッションに掲げるスタートアップが次々と生まれている。こうした挑戦を支えるVCやプライベートエクイティ(PE)投資には、単なる資金提供者としてだけでなく、持続可能な社会を共創するパートナーとしての役割が強く求められるようになった。

ジャフコもまた、その潮流の中心にいる。同社は「もはや未上場投資運用会社に期待されているのは、経済的リターンだけではない。投資先企業の中長期的な成長を通じて持続可能な社会の実現に貢献していくことが、私たちが果たすべき社会的役割」と認識を示している。

今回のPRI署名とESG投資方針の策定は、その決意を社内外に明確に示す、いわば「所信表明」と言えるだろう。

ジャフコが示す「ESG投資」の具体的な中身

今回策定されたESG投資方針は、ジャフコが掲げるパーパス「挑戦への投資で、成長への循環をつくりだす」を、より高い次元で実現するための羅針盤となる。

その骨子は、単なる理念の表明に留まらない。有望企業の発掘からEXITに至るまで、投資の全プロセスに具体的なアクションとしてESGの視点を組み込むことを明記している点が特徴だ。

【ジャフコのESG投資方針のポイント】

  • 目的の明確化: 社会課題を解決する有望企業への投資・成長支援を通じて、持続可能な社会を実現することを「使命」として定義。
  • ESG要素の考慮: 投資判断において、環境(気候変動、資源活用)、社会(人権、労働基準)、ガバナンス(コンプライアンス、透明性)を具体的に考慮する。
  • 投資先との「対話」: 投資先に対し「サステナビリティチェック」を定期的に実施。経営陣との対話を通じてESGリスクの低減と企業価値向上を促す。
  • 業界への貢献: 自社だけでなく、VC・PE業界全体におけるESG投資の浸透・推進に貢献することを目指す。

特に注目すべきは、投資先との「対話」を重視する姿勢だ。これは、ESGを単なる投資の「足切り」基準として使うのではなく、投資先と伴走しながら企業価値を高めていくという、ジャフコならではのインベストメントスタイルを反映している。

スタートアップエコシステムへのインパクト:「ESG」はもはや必須科目へ

日本を代表するVCであるジャフコのこの動きは、スタートアップエコシステム全体に大きな影響を与えるだろう。

今後、ジャフコからの投資を目指す起業家は、事業計画やテクノロジーの優位性に加え、自社の事業がESGの観点からどのような価値を生み出すのか、どのようなリスクを抱えているのかを明確に説明する必要に迫られる。

これは、挑戦者たちにとってハードルが上がることを意味するかもしれない。しかし、長期的に見れば、事業の初期段階から持続可能性を意識した経営体制を構築することは、レジリエンス(強靭性)を高め、グローバル市場で戦う上での強力な武器となるはずだ。

ジャフコが投じた一石は、日本のVC業界における「ESG投資」を“推奨科目”から“必須科目”へと変えていく契機となる可能性を秘めている。「挑戦への投資」は、経済的成長と社会的価値創造を両輪で駆動させる、新たな次元へと突入した。未来のユニコーンを目指す全ての挑戦者にとって、見逃せない変化の始まりである。

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