コロナ禍を経て、企業の営業活動は大きな変革を迫られた。対面が絶対だった世界は終わりを告げ、オンラインでの非対面営業が新たなスタンダードとして定着した。しかし、この変化は多くの企業に新たな、そして根深い課題を突きつけている。
「トップセールスのノウハウが、いつまでもその個人にしか蓄積されない」
「現場は日々の商談記録の入力作業に追われ、本来の営業活動に集中できない」
いわゆる「営業の属人化」と「生産性の低下」。これは、もはや単なる現場の悩みではない。企業の成長を阻害する巨大な壁だ。
この構造的な課題に対し、デジタルマーケティングの巨人・電通デジタルと、急成長を遂げる対話型音声AIスタートアップ・IVRy(アイブリー)がタッグを組んだ。両社が共同で提供を開始する「AI-DXソリューション」。その狙いは、単なる業務効率化に留まらない。AIを駆使して“営業”という仕事そのものを再定義し、組織の戦闘力を根本から引き上げるという、野心的な挑戦だ。
「見えない資産」を掘り起こす。音声データが“経営資源”になる日
非対面営業の主戦場は、電話やウェブ会議だ。そこでは日々、膨大な「対話」が生まれている。しかし、そのほとんどは記録されることなく、あるいは形式的な日報に数行記されるだけで、資産として活用されずに消えていく。ここに、トップセールスの成功の秘訣や、顧客のインサイトといった「見えない資産」が眠っているにもかかわらずだ。
この課題にメスを入れるのが、IVRyが提供する対話型音声AI SaaS「アイブリー」だ。AIが電話での会話をリアルタイムで記録し、要約まで自動で行う。営業担当者がこれまで費やしてきた入力作業という“苦行”から解放されるだけでなく、すべての対話が構造化されたデータとして蓄積されていく。
だが、データは蓄積するだけでは意味をなさない。ここに、電通デジタルの真骨頂が発揮される。
電通デジタル 副社長執行役員の小林大介氏は、「IVRyの先進的サービスと当社のコンサルティングノウハウを融合させることで、企業の営業活動に新たな付加価値を提供し、持続的なビジネス成長を支援してまいります」と語る。
彼らが狙うのは、蓄積された音声データの高度な分析だ。AIがハイパフォーマーのトークフローやキーワードといった成功要因を抽出し、可視化する。これまで“匠の技”として属人化していたノウハウが、誰でも再現可能なマニュアルやトレーニングAIへと変換され、組織全体のスキルを底上げするのだ。
これは、営業組織の“OS”を根底から書き換える試みと言えるだろう。
勘と経験のPDCAから、データドリブンな“科学的営業”へ
「AI-DXソリューション」がもたらす変革は、スキルの標準化だけではない。営業活動のPDCAサイクルそのものを高速化する。
IVRyのAIが生成した会話データや要約を基に、電通デジタルが次のアクション提案やセールスシナリオの改善点を即時フィードバックする。これにより、これまで個々の営業担当者の勘や経験に頼っていた改善プロセスが、データに基づいた科学的なアプローチへと進化する。
株式会社IVRy 代表取締役/CEOの奥西亮賀氏は、この共創の価値をこう語る。
「これまで可視化されていなかった『対話』をデータ化し、このデータに、電通デジタルが誇るコンサルティング力が加わることで、営業現場の『見えない価値』を組織の資産へと変えることができます」
「暗黙知」を「形式知」へ。これは、単なるツール導入ではない。営業という極めて人間的な活動にAIとデータサイエンスを掛け合わせ、再現性のある成長モデルを構築する「営業DX」の新たなスタンダードを創り出そうという挑戦なのだ。
この一手は、非対面営業の現場にどのような変革をもたらすのか。電通デジタルとIVRyが仕掛ける挑戦は、多くの企業の成長戦略を左右する、重要な試金石となるだろう。
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