日本の海運大手である株式会社商船三井は2025年7月31日、三井物産株式会社と共同で、英国スコットランドのジーイージーホールディングス(GEG)が保有する重要事業を買収することで合意したと発表しました。この戦略的な買収により、両社は世界的に拡大する洋上風力発電市場、特に欧州における拠点とサプライチェーンを強化し、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速させます。
買収の対象と背景:なぜ英国の「ニグ港」なのか

今回、両社が共同で買収するのは、英国スコットランドに位置する「ニグ港」の基地港湾事業と、洋上風力および石油・ガスなどのエネルギー産業向け鋼材加工・機器製造事業です。
この買収の背景には、英国政府が掲げる野心的なエネルギー政策があります。英国は2050年までのカーボンニュートラル(ネットゼロ)達成を国家目標としており、その実現のために洋上風力発電を主軸とする再生可能エネルギーの導入を強力に推進しています。
ニグ港が位置するスコットランド北海沖は、世界最大級の洋上風力開発エリアとして知られています。現在主流の着床式洋上風力発電はもちろんのこと、今後はより水深の深い海域での設置が可能となる「浮体式洋上風力発電」の巨大な開発計画が控えており、ニグ港はその建設・維持管理における中核的なハブ港としての役割が期待されています。商船三井は、この将来性豊かなニグ港を、欧州の海洋開発事業における最重要拠点と位置づけています。
海運と商社のタッグで描く成長戦略

本事業は今後、三井物産が51%、商船三井が49%を出資して設立する新会社「グローバルエナジーサービスホールディング(GESH)」を通じて運営されます。この共同事業は、両社の強みを最大限に活かすための戦略的なパートナーシップです。
- 商船三井の強み: 世界有数の海運会社として長年培ってきた船舶運航・管理、港湾運営に関する専門知識とアセット。
- 三井物産の強み: グローバルに広がる幅広い産業ネットワークと、大規模プロジェクトを組成・推進する総合商社としての知見。
両社はこれらの強みを掛け合わせることで、単なる港湾運営に留まらず、洋上風力発電設備の製造・加工から、資機材の保管・輸送、港湾ロジスティクスに至るまで、一貫したサプライチェーンを構築・強化することを目指します。
商船三井の長期戦略と未来への貢献
商船三井は、グループ経営計画「BLUE ACTION 2035」において、従来の海運業の枠を超え、社会インフラ企業へと変革を進めています。その中で「洋上風力事業」は、脱炭素化に貢献する重点領域の一つとして明確に位置づけられています。
今回の買収は、この長期戦略を具現化する重要な一歩です。洋上風力発電という成長分野において、港湾という不可欠なインフラを抑えることで、海上輸送サービスの高度化を推進し、事業の安定性と収益性を高める狙いがあります。
商船三井と三井物産は、本事業を通じて再生可能エネルギーの普及を力強く後押しし、世界的な課題である脱炭素社会の実現に貢献していくとしています。なお、本買収手続きは2025年夏ごろに完了する予定です。
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