THE WHY HOW DO COMPANY株式会社(東証スタンダード:3823、以下ワイハウ社)が10月31日、株式会社グッドマンの子会社化完了を発表した。堅実な収益構造を持つ同社の買収により、ワイハウ社は社会インフラ領域への本格参入を果たす。
「水道管の漏水探知」「通信ケーブルの探索」——一見すると地味な領域だが、亀田信吾CEOが見たのは、数字の裏にある「想い」だった。
「M&Aは、決して数字だけの取引ではありません。経営者の人生、従業員の誇り、お客様との絆。そのすべてを守り抜く”人助け”であるべきです」
亀田CEOがこう語るとき、それは単なるスローガンではない。グッドマン社の買収は、彼が掲げる「M&A安心宣言」を体現する、第2号案件なのだ。
1988年創業、「オンリーワン」を貫いた企業の決断
1988年、横浜で創業したグッドマン社。「ナンバーワンよりオンリーワン」という信念のもと、ニッチ市場で独自の地位を築いてきた。
通信ケーブルの導通確認に用いる「トーンプローブ」では大手通信事業者への納入実績を持ち、日本の通信インフラを支えてきた。
さらに、同社が自社開発した特許技術「ハイドロトレーサー(特許第6533279号)」は、水素ガスを利用した革新的な漏水検知装置だ。従来の音響式では困難だった環境音や水圧に左右されない確実な漏水発見を可能にし、近年の売上を大きく牽引している。
創業以来、現場の声を重んじ、誠実なものづくりを貫いてきた同社。その創業者が、ワイハウ社に事業を託す決断をした。
「グッドマン社の創業社長の想いを承継することが、ワイハウ社の責任と使命です」——亀田CEOの言葉には、数字を超えた覚悟がにじむ。
日本のインフラが直面する「静かな危機」
なぜ今、漏水検知なのか。その背景には、日本社会が直面する巨大な課題がある。
日本の水道管路の総延長は約74万キロメートル。高度経済成長期に整備された水道管の多くが法定耐用年数の40年を超え、老朽化が急速に進行している。令和3年度の水道管路の経年化率は22.1%——つまり、全国の水道管の約5本に1本が、すでに法定耐用年数を超えている。
問題は、老朽化したインフラの「見えなさ」にある。地中に埋設された水道管の劣化は、破裂や大規模漏水が発生するまで発見されにくい。そして、発見された時には、すでに莫大な経済損失と社会的混乱が生じている。
国土交通省の推計では、2019年度から2048年度までの30年間で、道路や橋梁などの維持管理・更新費用として約176.5~194.6兆円が必要とされる。限られた予算と人材で膨大なインフラを維持していくには、「事後対応」から「予防保全」への転換が不可欠だ。グッドマン社の技術は、まさにこの課題解決の鍵を握っている。
「ナンバーワンよりオンリーワン」——独自技術が生む圧倒的な参入障壁
グッドマン社の強みは、単なる輸入販売にとどまらない点にある。
同社は世界的トップメーカーとの独占販売契約を持つ一方で、自社開発にも積極的に取り組んできた。2023年11月には、ハイドロトレーサーの量産体制を強化するため、製造子会社・株式会社エムテックを設立。「メイド・イン・ジャパン」にこだわり、高い品質管理を実現している。
また、壁内や天井裏の配線ルートを音と光で瞬時に探知できる「スーパーピロちゃん」は、トーンプローブと非接触型線路探索機を融合した自社開発製品だ。
さらに、スイス・Gutermann社製の「ゾーンスキャン」は、AIを活用した無線ロガー式漏水探索システムだ。東京都水道局をはじめ国内主要水道事業体で導入され、効率的な漏水対策に貢献している。
こうした「唯一無二」の事業特性が、同社の高収益体質を支えている。ニッチ市場で高いシェアを獲得し、参入障壁の高いビジネスモデルを構築する——これがグッドマン社の真価だ。
「財務諸表には表れない”想い”を承継する」——亀田CEOの経営哲学
亀田CEOは過去のインタビューでこう語っている。
「私はこれまで3社の社長を務める中で、企業には財務諸表には表れない”想い”という大切な価値があることを学びました。ワイハウのM&Aは、その想いを未来へつなぐための橋渡しです」
今回のグッドマン社買収において、ワイハウ社が最も重視したのは、まさにこの「想いの承継」だった。
プレスリリースで亀田CEOは次のように述べている。
「現在、老朽化が進むインフラや水資源ロスといった課題が各地で顕在化する中、グッドマン社の先進的な漏水検知技術や探索機器は、”現場から社会を支える力”として欠かせない存在です。私たちワイハウは、こうした技術と姿勢に深く共鳴し、グループ化という形で共に歩むことを決断しました」
M&Aにおいて、しばしば看過されがちなのが、創業者が築いてきた企業文化や顧客との信頼関係だ。特に技術系企業の場合、創業者の哲学や技術へのこだわりが、事業の根幹を成していることが多い。
ワイハウ社は「M&Aは人助け」という理念を掲げている。単なる財務的な買収ではなく、グッドマン社が長年培ってきた「現場の声を重んじるものづくり」という姿勢を尊重し、その上で新たな成長戦略を描いていく覚悟を明確にしている。
「お顔を見て、直接お話しする」——現場第一主義の実践
亀田CEOの経営スタイルを象徴するのが、「現場第一主義」だ。
第1号案件となったスティルアン(浜松のブライダル事業)の買収時、亀田CEOは自ら浜松に足を運び、社員一人ひとりに挨拶とご説明をした。その様子をSNSで発信した際、彼はこう綴っている。
「クロージング後に初めて浜松へ行きました。スティルアンの社員の皆様へあいさつとご説明をしてきました。これから、ワイハウとスティルアンで浜松を盛り上げていく。企業成長をさせて、すべての関係者が豊かになるように。『M&A安心宣言』でお約束した通り、売却を前提とせず、企業文化と雇用を守り、現場主義で伴走していきます」
「お顔を見て、直接お話しすることでしか生まれない信頼関係を築く」——これは、亀田CEOが「M&A安心宣言」で掲げた約束そのものだ。
グッドマン社の買収においても、この姿勢は変わらない。今回のグループ化を機に、ワイハウの営業経験豊富な人材である大貫公寛氏がグッドマン社の新社長として就任した。これにより、営業力強化を通じた販売網の拡大・顧客接点の深化を図り、既存取引先とのリレーション強化だけでなく、新たな業種・地域へのアプローチを実現していく。
AI×インフラ技術の融合——デジタルとリアルをつなぐ成長戦略
今回の買収には、もう一つの重要な意味がある。それは、「デジタル×リアル」の融合だ。
ワイハウ社は2025年9月11日、「AIバリューアップ本部」を設立した。AI技術を活用したM&A支援と企業価値向上サービスを強化する組織である。この本部とグッドマン社の技術を掛け合わせることで、次世代のインフラソリューションが生まれる可能性がある。
プレスリリースでは次のように述べられている。
「グッドマン社の保有する計測データやインフラ監視技術と、ワイハウのAI・データ解析力を掛け合わせることで、より高度でスマートな社会インフラの構築を目指してまいります」
例えば、複数のインフラデータを統合解析することで、漏水だけでなく、電気・通信設備の異常予兆まで含めた「トータルインフラヘルスケア」のような展開も視野に入る。AIによる予測精度が向上すれば、自治体や企業の保全コストを大幅に削減できる可能性がある。
スマートシティやIoTインフラ監視といった次世代分野への展開——これは、グッドマン社の現場知見と、ワイハウ社のAI技術が融合して初めて実現できる価値創出だ。
第1号・第2号と社会課題解決型M&Aを推進
亀田CEO体制発足から数ヶ月で、第1号のスティルアン、第2号のグッドマンと、社会課題解決型の事業を立て続けにグループ化したスピード感は、同社の本気度を物語っている。
しかし、亀田CEOが追求するのは、単なる売上規模の拡大ではない。ワイハウの岩尾俊兵取締役は、亀田CEOのマネジメントについて、「論理だけでなく、人の感情や関係性も深く考慮したリーダーシップ。周囲への配慮やサポートを惜しまず、メンバーが能力を発揮しやすい心理的安全性の高い環境を醸成する」と評価している。
「お預かりした企業を『家族として迎え入れ』、共に成長していきます」——この言葉に偽りはない。
「WHY(なぜ生きるか)」を問い続ける経営
THE WHY HOW DO COMPANYという社名には、深い意味が込められている。
「WHY(なぜ生きるか)」「HOW(どう生きるか)」——この二つの問いを常に自らに課し、社会に必要とされる価値を創出し続ける。それが、同社の企業理念だ。
グッドマン社の買収は、「社会に必要とされる価値をどう実現するか」という問いに対する、明確なアクションである。
老朽化するインフラ、限られた予算と人材、増大する社会的コスト——これらの課題に対して、技術とビジネスモデルで解を示す。同時に、長年築き上げられた「現場の声を重んじるものづくり」という文化を守り抜く。
亀田CEOは最後にこう述べている。
「今回のグループ化は、『社会に必要とされる価値をどう実現するか』という私たちの問いに対する、明確なアクションです。グッドマン社の誠実なものづくりと、ワイハウの事業開発・AI活用力を融合し、日本のインフラをより強く、未来につなげていきます」
次のM&Aは何か——中期経営計画が示す成長シナリオ
気になるのは「次」だ。
第1号のスティルアン、第2号のグッドマンと、いずれも社会課題解決型の事業を選択してきたワイハウ社。中期経営計画では、こうしたM&Aの継続推進を明言している。
AIを軸とした事業ポートフォリオの拡充という観点では、医療、農業、物流、製造など、まだまだ多くの領域にチャンスが眠っている。
重要なのは、ワイハウ社が「数字のためのM&A」ではなく、「社会的意義のあるM&A」を選択し続けている点だ。
「M&A安心宣言」5つの約束:
- 売却を前提としない長期保有の原則
- 企業文化と雇用の継承
- グループ全体でのシナジー創出
- 経営の自主性を尊重
- 現場主義による伴走支援
この約束を守り続けることが、ワイハウ社の成長の源泉となる。
なぜなら、経営者は「数字だけを見る会社」ではなく、「想いを理解してくれる会社」に事業を託したいからだ。
「人助けの気持ちこそ、M&Aの原点」
亀田CEOは、「M&A安心宣言」の冒頭でこう述べている。
「M&Aは、決して数字だけの取引ではありません。経営者の人生、従業員の誇り、お客様との絆。そのすべてを守り抜く”人助け”であるべきです。私たちワイハウは、法律家、金融人、マスコミ経験者、経営者など、多様な経歴を持つ役員が一丸となり、この”人助けの気持ち”でM&Aに臨みます」
グッドマン社のM&A完了は、この言葉を体現する一歩だ。
創業以来、現場で汗を流してきた創業社長の想い。独自技術で日本のインフラを支えてきた従業員たちの誇り。信頼して製品を使い続けてくれる顧客との絆。
そのすべてを「家族として迎え入れ」、共に成長していく。
これこそが、亀田CEOが描く「人助けM&A」の真髄なのだ。
ワイハウ社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
株式会社グッドマン 概要
- 所在地: 神奈川県横浜市金沢区六浦東2-3-3
- 設立: 1988年3月5日
- 代表者: 代表取締役 大貫公寛(ワイハウより就任)
- 事業内容: 漏水検査機器・埋設物探索機器・通信線測定器等の輸入販売、国内製造品の開発・販売
- 取得: THE WHY HOW DO COMPANY株式会社が株式100%を取得
- URL: https://www.goodman-inc.co.jp
主要製品
- ハイドロトレーサー(水素式トレーサーガス造成装置・特許取得済み)
- スーパーピロちゃん(デジタルケーブル探索機)
- ゾーンスキャン(AI活用無線ロガー式漏水探索システム)
- トーンプローブ(通信ケーブル導通確認機器)
THE WHY HOW DO COMPANY株式会社 概要
- 所在地: 東京都新宿区愛住町22 第3山田ビル
- 設立: 2004年7月
- 上場: 東証スタンダード(3823)
- 代表者: 執行役員社長 CEO 亀田信吾
- 事業内容: 新規事業の立ち上げ支援、M&A・投資戦略、子会社への経営指導
- URL: https://twhdc.co.jp



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