THE WHY HOW DO COMPANY株式会社
ブランド共創部 担当部長
「CHALLENGER/産業創造の挑戦者たち」編集長
浜崎 正己
はじめに:共創コミュニティが介護領域にもたらす変革
厚生労働省のニーズ・シーズマッチング事業2024で示された188件の介護現場ニーズを俯瞰すると、介護の課題解決には単一企業や単一技術では対応しきれない複雑性があることが見えてきます。移乗支援、見守り、記録システム、コミュニケーション支援など、あらゆる領域で多様なステークホルダーの連携が必要とされています。
ここで注目したいのが「共創コミュニティ」という概念です。共創コミュニティとは、異なる専門性、立場、経験を持つ人々が対等な関係で集い、対話を通じて新たな価値を創り出す場です。従来の「作り手と使い手」「売り手と買い手」という二項対立を超え、全ての参加者が価値創造に関わるという点が特徴です。
本稿では、介護領域における共創コミュニティの可能性と、B2C・B2B両面での展開について考察したいと思います。
1. 介護領域における共創コミュニティの必要性
従来のアプローチの限界
介護領域では従来、以下のようなアプローチが中心でした。
- B2B的アプローチ:福祉機器メーカーが介護施設向けに製品を開発・販売
- B2C的アプローチ:在宅介護向け製品を個人消費者に販売
- G2B的アプローチ:行政が介護事業者に対しサービス提供のルールを設定
これらのアプローチには明確な限界があります。開発者と現場の乖離、導入後のフォロー不足、現場ニーズの多様性への対応困難などが挙げられます。例えば「記録・情報共有」の課題一つを取っても、介護現場の業務フロー、職員の習熟度、施設の方針によって最適解が大きく異なります。これを単純な「作り手と使い手」の関係で解決することは困難です。
共創コミュニティによる新たな可能性
共創コミュニティでは、メーカー、介護施設、介護職員、被介護者、家族、行政、研究機関などが対等な立場で参加し、継続的な対話と協働を通じて解決策を生み出していきます。このアプローチには以下の利点があります。
- 継続的改善の実現:一度の開発で終わるのではなく、実践→評価→改善のサイクルを継続的に回せる
- 多様な視点の統合:技術、現場ノウハウ、制度、倫理など多角的な視点から最適解を模索できる
- 当事者意識の共有:全ての参加者が「創り手」となることで当事者意識と責任感が生まれる
- 新たな価値の発見:異なる視点の交わりから、予想外の価値や発見が生まれる可能性がある
一例として「高齢者の見守り」という課題を考えてみましょう。従来のアプローチでは、センサーメーカーが製品を開発し、介護施設に販売するという流れになります。しかし共創コミュニティでは、センサーメーカー、システム開発者、介護施設運営者、介護職員、高齢者家族、倫理学者などが集まり、「見守りとは何か」という根本的な問いから対話を始めます。その結果、単なるセンサー技術ではなく、介護者の働き方、施設の空間設計、記録システムとの連携、倫理的配慮を統合した包括的なソリューションが生まれる可能性があります。
2. B2C領域における共創コミュニティの展開
B2C領域の特徴と課題
介護のB2C領域とは、主に在宅介護に関わる製品・サービスを個人消費者(要介護者や家族介護者)に提供する市場です。この領域には以下のような特徴と課題があります。
- 個別性の高さ:住環境、家族構成、要介護者の状態など千差万別
- 専門知識の非対称性:介護の専門知識や経験が購入者側に不足
- 継続的サポートの難しさ:製品購入後のフォローが困難
- 感情的側面の重要性:介護には感情的・心理的負担が伴う
これらの特徴から、単純な「商品を販売する」という関係では十分な価値提供が難しい状況があります。
B2C共創コミュニティの可能性
B2C領域における共創コミュニティは、以下のような形で展開できる可能性があります。
- リビングラボ型コミュニティ
リビングラボとは、実際の生活環境の中で利用者と共に製品・サービスを開発・検証する手法です。例えば、ある地域の在宅介護世帯10軒が集まり、メーカー、ケアマネージャー、訪問看護師などと共に新たな介護機器やサービスを試し、改良していくコミュニティを形成することができます。
具体的には、「老老介護のために被介護者をベッドから移乗させることができない」という課題に対して、移乗支援機器メーカー、住宅改修業者、訪問介護事業者、当事者家族が集まり、各家庭の実情に合わせた総合的な解決策を共に考え、試行錯誤するといったアプローチが考えられます。
- オンライン・オフライン融合型コミュニティ
地理的制約を超えるため、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドな共創コミュニティも有効です。例えば、オンラインでの定期的な情報交換や体験共有の場と、数か月に一度のリアル交流会を組み合わせることで、広域から多様な参加者を集めつつ、顔の見える関係性も構築できます。
「CHALLENGER」のオープンチャットや公式LINEアカウントを活用した日常的な対話と、定期的な「共創カフェ」などのリアルイベントを組み合わせることで、継続的な共創の場を提供することが可能です。
- ピア・サポート型共創コミュニティ
同じような課題を持つ当事者同士が支え合いながら、企業や専門家と共に解決策を模索するコミュニティも効果的です。例えば、認知症の家族を介護する人々が集まり、彼らの声を直接製品開発に反映させるという取り組みが考えられます。
「認知症の方との会話の負担」「徘徊に対する不安」といった共通の課題を持つ家族介護者が集まり、コミュニケーション支援ツールの開発企業と共に、実際の使用体験をフィードバックしながら改良を重ねていくプロセスが想定されます。
B2C共創コミュニティの実現に向けた取り組み
このようなB2C共創コミュニティの実現に向けて、ブランド共創部では次のような支援が可能です。
- 「CHALLENGER」を通じたコミュニティ形成支援
- 共創に関心を持つ個人、企業、専門家をつなぐプラットフォームとしての機能
- 共創事例の発信による社会的認知の向上
- オープンチャットなどを活用したオンラインコミュニティの運営サポート
- 対話の場のデザインと運営
- 当事者・企業・専門家など多様なステークホルダーが対等に対話できる場の設計
- ファシリテーションの提供による建設的な対話の促進
- 対話から生まれたアイディアの具体化支援
- 共創プロセスの記録と共有
- 共創の過程で生まれた気づきや学びの体系的な記録
- メンター・メンティー制度を活用した知見の循環
- 成功体験・失敗体験の共有による学習の促進
3. B2B領域における共創コミュニティの展開
B2B領域の特徴と課題
介護のB2B領域は、主に介護施設や事業者向けの製品・サービスを提供する市場です。この領域の特徴と課題としては、
- 組織的意思決定の複雑さ:導入決定までのプロセスが複雑で時間がかかる
- 現場と経営層の認識ギャップ:現場ニーズと経営判断にずれが生じやすい
- 業務システムとの統合の必要性:既存システムとの連携が不可欠
- 導入後の定着支援の重要性:製品導入後の活用度に大きな差が出る
これらの特徴から、単に良い製品を提供するだけでは十分な価値創出が難しく、導入前から導入後まで一貫した関係構築が求められます。
B2B共創コミュニティの可能性
B2B領域における共創コミュニティは、以下のような形で展開できる可能性があります。
- クロスセクター型共創コミュニティ
異なる業種・業態の企業が集まり、それぞれの強みを持ち寄って総合的なソリューションを構築するコミュニティです。例えば、見守りセンサー企業、記録システム会社、建築設計事務所、介護事業者が集まり、施設の物理的環境と情報システムが融合した包括的な見守りソリューションを共創するといったアプローチが考えられます。
「夜間の見守り業務における精神的・身体的負担」「夜間徘徊における安全性確保」といった関連する複数の課題に対して、異業種の企業が連携することで、単一企業では実現できない統合的な解決策を生み出すことができます。
- ユーザー参加型開発コミュニティ
製品やサービスの実際のユーザーである介護職員が開発プロセスに参加し、実践的フィードバックを提供する共創の場です。例えば、介護記録システムの開発において、介護職員がプロトタイプを実際に試用し、使いやすさや機能についての意見を直接開発者に伝えるというプロセスが挙げられます。
「記録内容のばらつき、重複記入」「記録・申し送り業務に関する負担」などの課題に対して、実際の利用者の声を直接製品開発に反映させることで、現場で真に役立つシステムの実現が可能になります。
- 実証実験型共創コミュニティ
新たな技術やサービスの実証実験を行いながら、データと体験に基づいて改良を重ねるコミュニティです。例えば、複数の介護施設が参加する実証実験コンソーシアムを形成し、新技術の導入効果を科学的に検証しながら改良していくというアプローチが考えられます。
「適切な介護ロボット・福祉用具の選定」という課題に対して、複数の施設での実証データを蓄積・共有することで、導入効果の予測精度を高め、各施設の状況に応じた最適な選定を可能にします。
B2B共創コミュニティの実現に向けた取り組み
このようなB2B共創コミュニティの実現に向けて、ブランド共創部では次のような支援が可能です。
- 企業間マッチングと対話の場の創出
- 異業種・異分野の企業が出会い、対話する機会の提供
- 共通の課題意識を持つ企業同士のマッチング
- 価値創造パートナーのネットワークを活用した専門知の導入
- 実証環境の提供と調整
- PoC(概念実証)を迅速に行える環境の提供
- 実証実験施設とのマッチング支援
- 谷畑英吾氏(元全国市長会副会長・元湖南市長)のネットワークを活用した自治体との連携促進
- 共創成果の可視化と発信
- 「CHALLENGER」や「価値創造ラジオ」を通じた共創事例の発信
- 成果の社会的・経済的価値の可視化
- 業界標準や好事例としての普及支援
4. B2CとB2Bの境界を超える共創コミュニティ
介護分野においては、B2CとB2Bの境界が曖昧になってきています。在宅介護と施設介護のハイブリッド化、地域包括ケアシステムの推進、テクノロジーの発展により、従来の「事業者向け」「個人向け」という区分が意味を失いつつあります。
そこで注目したいのが、B2CとB2Bの境界を超えた「統合型共創コミュニティ」です。
統合型共創コミュニティの可能性
統合型共創コミュニティでは、次のような特徴と可能性があります。
- 介護エコシステム全体の最適化
- 在宅介護と施設介護の連続性を確保
- 情報・知見の循環による全体最適化
- 利用者を中心とした一貫したケアの実現
- 地域包括ケアを支える共創基盤
- 医療・介護・予防・住まい・生活支援の五要素を統合
- 地域資源の発掘と連携の促進
- 自治体・企業・NPO・住民など多様な主体の協働
- 新たな産業創造の場
- 従来の産業区分を超えた新たなビジネスモデルの創出
- 「ケアテック」など新たな産業領域の形成
- 社会的価値と経済的価値の両立
具体的な統合型共創コミュニティの例
例えば、次のような統合型共創コミュニティが考えられます。
- 「地域ケアDXコミュニティ」
- 地域の介護施設、訪問介護事業者、医療機関、自治体、テクノロジー企業、地域住民などが参加
- 情報共有基盤の構築から始め、ケアの質向上と業務効率化を同時に目指す
- 施設と在宅の境界を越えた一貫したケア記録・情報共有の実現
- 「移動・外出支援共創ラボ」
- 公共交通機関、福祉車両メーカー、移動支援アプリ開発者、介護タクシー事業者、施設、在宅高齢者、家族などが参加
- 「買い物へ行くことができない」「通院することができない」「外出困難な高齢者の地域コミュニティへの参加」といった課題に総合的に取り組む
- 物理的移動と社会参加を統合的に捉えたソリューション開発
- 「認知症ケア共創コミュニティ」
- 認知症ケア専門家、施設、家族介護者、テクノロジー企業、建築・環境設計者などが参加
- 「不安・不穏を繰り返す方のコミュニケーション」「夜間徘徊における安全性確保」「認知症周辺症状の回避・対応」といった課題に総合的に取り組む
- 施設ケアと在宅ケアの両方を視野に入れた認知症フレンドリーな環境とケアの共創
5. 共創コミュニティの形成・運営に向けたステップ
ここでは、介護領域における共創コミュニティの形成・運営に向けた具体的なステップを提案します。
ステップ1:共通の課題認識の形成
共創コミュニティの出発点は、参加者間での共通の課題認識です。当社ブランド共創部では、次のような取り組みでこの段階を支援できます:
- 「CHALLENGER」での課題特集
- 介護現場の声を丁寧に拾い上げた記事の制作
- 企業視点・利用者視点・専門家視点からの多角的な課題分析
- 深層ニーズの可視化による共感の場の形成
- テーマ別対話セッションの開催
- 「見守り」「記録」「移乗」など特定テーマに関する少人数対話の場
- 異なる立場の参加者が対等に意見交換できる場のデザイン
- 表面的ニーズの背後にある本質的課題の発掘
- 課題マップの共同作成
- 関連する複数の課題の構造的理解を促進
- 優先順位や影響関係の可視化
- 共通理解の基盤となる参照枠組みの構築
ステップ2:多様な参加者の巻き込み
共創コミュニティの価値は参加者の多様性から生まれます。当社では次のようなアプローチで多様な参加者の巻き込みを支援します。
- 価値創造パートナーネットワークの活用
- 谷畑英吾氏(元全国市長会副会長・元湖南市長)を通じた自治体との連携
- 井上博貴監督(映画監督・脚本家)による創造的視点の導入
- 杉本誠司氏(「ニコニコ動画」運営会社元社長)のデジタルプラットフォーム知見の活用
- メンター・メンティー制度との連携
- 「他者と自分を同時に幸せにする」価値観に共感する人材の発掘
- 経験者から初学者への知見継承の促進
- 対話の記事化による知の共有と新たな参加者の勧誘
- 現場からの参加を促す工夫
- 介護職員や被介護者が参加しやすい時間・場所・方法の配慮
- オンライン参加とリアル参加の柔軟な組み合わせ
- 専門用語を避けた平易なコミュニケーションの促進
ステップ3:共創プロセスの設計と実践
効果的な共創には適切なプロセス設計が不可欠です。当社では次のような共創プロセスを提案・支援します。
- デザイン思考アプローチの導入
- 共感→問題定義→創造→プロトタイプ→テストの循環的プロセス
- ユーザー中心設計の徹底
- 失敗を学びに変える文化の醸成
- 小さく始めて素早く学ぶ実践
- 最小限の機能・規模での試行(MVP: Minimum Viable Product)
- 短期間での検証と改善の繰り返し
- 成功体験の積み重ねによるモチベーション維持
- 多様な創造技法の活用
- ブレインストーミング、KJ法、シナリオプランニングなど多様な創造技法
- 右脳的・左脳的アプローチの使い分けと統合
- 視覚化ツールを活用した発想の促進
ステップ4:成果の共有と発展
共創の成果を広く共有し、さらなる発展につなげることも重要です。当社では次のような取り組みで共創の拡大再生産を支援します。
- 共創成果の可視化と発信
- 「CHALLENGER」や「価値創造ラジオ」による共創事例の発信
- 社会的価値と経済的価値の両面からの成果評価
- ストーリーテリングによる共感的理解の促進
- 知見の体系化と共有
- 共創から得られた学びや気づきの体系的整理
- 他分野・他地域への応用可能性の検討
- オープンソース的な知見共有の促進
- コミュニティの持続的発展支援
- 参加者の内発的動機づけの強化
- 適切な緊張感と心理的安全性のバランス維持
- 新たな課題設定による共創サイクルの継続
おわりに:共に創る未来の介護
介護領域における共創コミュニティは、単なる製品・サービス開発の方法論を超えて、介護のあり方そのものを再定義する可能性を秘めています。B2CとB2Bの境界を超え、あらゆるステークホルダーが当事者として参加する共創は、「介護される側」「介護する側」という二項対立を超えた、尊厳ある共生社会の実現にもつながるでしょう。
ブランド共創部は、「価値創造経営の力で、もう一度豊かになる」というワイハウの理念のもと、介護領域における共創コミュニティの形成と発展を全力で支援してまいります。介護の課題を単なる「問題」ではなく、新たな価値創造の「機会」として捉え直し、共に明るい未来を創り出していきましょう。
「少しでも多くの挑戦と応援が生まれるために」—この思いを胸に、皆様との共創の旅を楽しみにしています。
お問い合わせ:ブランド共創部 担当部長 浜崎正己
https://twhdc.co.jp/inquiry/
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