クルマのサブスクリプションサービスで市場を切り拓いてきた株式会社KINTOが、次なる一手として大胆な一歩を踏み出した。同社は、モータースポーツファンに向けた新サービス「MOTORSPORT by KINTO(MOSKIN)」の開始を発表。これは単なる新サービスではなく、KINTOが「モノの提供」から「熱狂的な体験の提供」へと事業の軸足を移す、重要な戦略転換の狼煙かもしれない。
なぜ今、ニッチな「モータースポーツ」市場なのか?
若者のクルマ離れが叫ばれて久しい。しかしその一方で、特定の車種やカルチャーに情熱を注ぐコアなファンコミュニティは、むしろ熱量を増している。KINTOが狙うのは、このギャップに存在する巨大なポテンシャルだ。
「初期投資が高い」「サーキット走行は敷居が高い」「自分のクルマを壊したくない」——。モータースポーツに興味はあっても、こうしたハードルから一歩を踏み出せない潜在層は少なくない。MOSKINは、この参入障壁をテクノロジーとサブスクモデルで鮮やかに解消しようとしている。
巧みに設計された「ファン育成エコシステム」
MOSKINのサービスラインナップは、単なるメニューの羅列ではない。顧客をファンへと育成するための、緻密に設計されたエコシステムとなっている。
- 入口(体験): 8時間から借りられる「レンタル」や、手ぶらで参加できる「サーキットレンタル」「走行・体験イベント」で、まずは気軽に“非日常”を体験させる。
- 深化(所有): 体験を通じて熱量が高まった顧客には、TOM’Sがチューンアップした特別なマシンに最長2年間乗れる「サブスク」を提案。月額定額で“憧れの所有体験”を提供する。
この流れは、ライト層を惹きつけ、ミドル層に育て、ヘビーユーザー(ファン)へと転換させるという、現代のファンマーケティングの王道とも言える戦略だ。KINTOは、クルマを売るのではなく、モータースポーツという「ライフスタイル」と「コミュニティ」を売ろうとしている。
「所有から利用へ」の次に来るもの

トヨタグループの一員であるKINTOが、リースアップ車両という自社アセットを活用し、TOM’Sという外部の匠と組んで新たな価値を創造する。この動きは、大企業のアセットとスタートアップ的な発想を組み合わせた、オープンイノベーションの好例でもある。
「所有から利用へ」という第一波をサブスクでリードしたKINTO。彼らが次に仕掛ける「体験のサブスクリプション」は、自動車業界のみならず、あらゆる“モノ”を扱う産業の未来を占う試金石となるだろう。KINTOの挑戦から目が離せない。
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