人気バトルロイヤルゲーム『PUBG: BATTLEGROUNDS』で世界を席巻した韓国のゲーム企業、KRAFTON。同社が発表した2025年上半期の経営実績は、多くの市場関係者の度肝を抜くものだった。
その売上高は、半期ベースで過去最高となる1兆5,362億ウォン(約1,690億円*)、営業利益は7,033億ウォン(約774億円*)。一つの巨大IPがもたらす収益力の凄まじさを見せつけると同時に、その巨額の利益を次なる成長のためにどう投資していくのか、その壮大な戦略が明らかになった。
*1ウォン=0.11円で換算
盤石の収益基盤「PUBG IPフランチャイズ」
今回の最高益を支えたのは、やはり絶対的な収益源である『PUBG』IPだ。
PC版では大規模アップデート、モバイル版では魅力的な課金アイテムを実装し、既存プレイヤーを飽きさせない運営を徹底。特に注目すべきは、インド市場向けに展開する『BATTLEGROUNDS MOBILE INDIA』(BGMI)でのローカライズ戦略だ。現地の有名企業とのコラボやユーザーに合わせたマーケティングを展開し、巨大市場での存在感を確固たるものにしている。
下半期も、高級自動車ブランド「Bugatti」やK-POPアーティスト「aespa」とのコラボを予定しており、既存IPの価値を最大化する戦略に抜かりはない。
「ポストPUBG」を創る、3つの巨大投資戦略
しかし、KRAFTONの真の恐ろしさは、この盤石な収益基盤の上で、未来に向けて極めて多角的かつ大胆な投資を断行している点にある。その戦略は、大きく3つの柱で構成されている。
1. 新規IP開発:「ビッグフランチャイズ」の創出
同社は「ビッグフランチャイズIPの確保」を明確な目標に掲げ、現在なんと13もの新規ゲームプロジェクトを同時に進めている。エクストラクションシューター『Project Black Budget』や、リアルな人生シミュレーションで話題の『inZOI』など、そのジャンルは多岐にわたる。一つの成功に安住せず、次なる柱を自らの手で創り出そうという強い意志がうかがえる。
2. AI技術:ゲームの未来への先行投資
KRAFTONは、AIを次世代のゲーム体験を革新するコア技術と捉え、具体的な投資を進めている。大規模言語モデル(LLM)の能力を評価するベンチマーク「Orak」を自社で公開したり、SK Telecom社と共同でゲームに特化したAIモデルを開発したりと、その動きは本格的だ。これは、ゲーム内のキャラクターがより人間らしく振る舞ったり、プレイヤー一人ひとりに最適化された物語が自動生成されたりする未来への布石と言えるだろう。
3. M&A・戦略投資:エコシステムの拡大
最も注目すべきは、ゲームという領域を超えた戦略的投資だ。
- Eleventh Hour Games(米国): 人気アクションRPG『Last Epoch』の開発元を買収。
- Neptune Company(韓国): ゲーム開発会社の筆頭株主に。
- ADKグループ(日本): 300本以上のアニメ制作委員会に参加してきた大手総合広告会社へ戦略的投資。
これらの動きは、KRAFTONが単なるゲーム開発・運営会社ではなく、多様なIPを創出し、アニメや広告といった周辺産業と連携しながら巨大なエンターテインメント・エコシステムを構築しようとしていることを示唆している。
KRAFTONの戦略は、一つのヒット作から得た利益を、未来の「開発力」「技術力」「IPポートフォリオ」へと的確に再投資する、成長戦略の教科書とも言えるものだ。彼らが次にどんな「挑戦」で世界を驚かせるのか、その動向から目が離せない。
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