卸売の巨人が“顔見せ”する理由。三菱食品、100周年ポップアップストアに隠された「BtoBtoC」ブランディング戦略

日本の食流通を支える“黒子”の巨人、三菱食品。BtoBの典型である食品卸最大手の彼らが、創業100周年を機に、異例とも言える一手に出た。東京を皮切りに、全国7都市でBtoC向けのポップアップストアを開催するというのだ。

これは単なる記念イベントではない。流通構造が激変し、メーカーと消費者の距離が急速に近づく現代において、三菱食品が次の100年を生き抜くために仕掛ける、巧みな「BtoBtoC」ブランディング戦略の幕開けである。

なぜ、卸売業者が「直接」顧客に語りかけるのか?

これまで三菱食品は、その名の通り、食品メーカーと小売店を繋ぐ「卸売」を事業の根幹としてきた。しかし、今回のポップアップストアで主役となるのは、同社が自ら手がけるオリジナルブランドの数々だ。「バリラ」のパスタ、「からだシフト」の健康志向食品など、彼らが持つメーカーとしての一面を、生活者に直接アピールする。

この狙いは明確だ。

  1. 「黒子」からの脱却とブランド価値向上: 小売店の棚の裏側にいた存在から、価値ある商品を創造し、生活者に直接届ける「顔の見える企業」へとブランドイメージを転換する。
  2. D2C的アプローチによるデータ獲得: ポップアップストアは、生活者の生の声を直接ヒアリングし、商品へのフィードバックを得る絶好の機会。ここで得られる定性・定量データは、今後の商品開発やマーケティング戦略における、何物にも代えがたい資産となる。
  3. パーパスの具現化と共感の醸成: 『これからの100年プロジェクト』で掲げる「感謝」「子育て支援」「地域創生」といった抽象的なパーパス(存在意義)を、試食やワークショップといったリアルな“体験”を通じて社会に伝える。これにより、価格競争を超えた、共感によるエンゲージメントを構築する。

全国7都市開催が示す、緻密なエリアマーケティング

開催地を東京だけでなく、全国7都市に広げた点も示唆に富んでいる。これは、各エリアの生活者の反応を直接見るテストマーケティングとしての側面を持つと同時に、その地域の小売店に対する強力な「営業支援」にもなり得る。自社が地域の活性化に貢献し、オリジナル商品の魅力を生活者に直接伝えることで、小売店との関係性をより強固なものにする狙いがあるのだろう。

三菱食品のこの挑戦は、BtoB企業がいかにして生活者との接点を戦略的に創出し、ブランド価値を高め、最終的に本業であるBtoBビジネスに還元していくかという、これからの時代の重要なケーススタディとなる。彼らがこのポップアップストアで得る「顧客との対話」が、次の100年の成長をどう描くのか、注目に値する。

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