日本経済の再生に向けて、大企業とスタートアップの連携に大きな期待が寄せられています。一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は2023年1月、大企業のスタートアップ連携への取り組み度合いを可視化する「スタートアップフレンドリースコアリング」を導入しました。本スコアリングは、両者の協創の実態を明らかにし、ベストプラクティスを共有することで、イノベーション創出を加速させることを狙いとしています。
スコアリングの開発を主導したのは、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授です。入山教授は、スタートアップとの連携を通じて、大企業に「知の探索」を促すことの重要性を指摘しています。ここでいう「知の探索」とは、長期的な視点に立ち、幅広く新しい知見を取り入れることを意味します。「知の深化」、すなわち既存の知見を深く追求することに偏りがちな日本企業の意識改革を促す狙いがあるようです。
スコアリングでは、大企業から見た、スタートアップへのリソース提供、スタートアップの事業・人材の取り込み、スタートアップエコシステムへの事業・人材の輩出の3つの観点から、各社の取り組みを評価します。評価には、各社の意思、仕組み・制度、アクションを多角的に問う32の設問が用いられました。
2023年1月の初回実施には、上場企業を中心に148社もの大企業が参加したとのことです。トヨタ自動車、日立製作所、NTTといった日本を代表する企業も名を連ねています。各社とも、自社の立ち位置を客観的に把握し、オープンイノベーションの取り組みを加速させる意欲の表れと受け止められます。
ただし、大企業とスタートアップの連携には、少なからぬ困難が伴うのも事実です。事業シナジーや意思決定スピードをめぐる食い違いを乗り越えるには、お互いの理解を深め、粘り強く対話を重ねる必要があります。Win-Winの関係を築くための評価指標の設計にも、知恵の結集が欠かせません。
こうした課題の存在を浮き彫りにし、その解決に向けた共通言語を提供することにこそ、スタートアップフレンドリースコアリングの意義があるのかもしれません。単発の評価で終わらせることなく、継続的な対話と学びあいの場として機能していくことが期待されます。
入山教授は、失敗を恐れないカルチャー、多様性、情熱の3つが、イノベーティブな社会を支える土台になると説きます。スタートアップの創業者のように、失敗を恐れずに次の一手を打っていく文化、スタートアップと大企業の交流を通じて生まれる多様性、イノベーションの原動力となる高い志。日本の産業界が発展していくためには、こうした要素を根付かせることが肝要だと述べています。
今回のスコアリングの結果は、各社のスタートアップ連携の度合いに大きな差があることを示唆しているようです。デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的に取り組んでいる企業が高い評価を得た一方で、取り組みが遅れている企業も少なくないとのことです。イノベーションをめぐる競争が激化するなか、この二極化の傾向は今後ますます顕著になるかもしれません。DXの本質を見極め、スタートアップの力を自社の成長に活かせるかどうか。各社の経営陣の判断力が問われる局面を迎えていると言えるでしょう。
課題先進国と言われる日本だからこそ、スタートアップにはイノベーションを創出し、社会課題を解決する大きなチャンスがあります。大企業がスタートアップの力を引き出し、その可能性に賭けることができれば、日本経済に新たな活力を吹き込むことができるはずです。経団連のスタートアップフレンドリースコアリングは、そのための突破口を開く取り組みの一つと言えるかもしれません。
日本の未来は、革新への情熱を胸に果敢に挑戦を続ける起業家たちと、その舞台を整え、惜しみない支援を届ける応援者たちの化学反応によって切り拓かれていくことでしょう。スタートアップと大企業をつなぐ架け橋として、経団連には引き続き重要な役割を果たしていただきたいと思います。スタートアップフレンドリーな環境を育む取り組みを通じて、日本にイノベーションの新風を吹き込んでいただけることを心から期待しています。